コアな女性ファンも多そうなマッツ・ミケルセン主演、2012年公開のデンマーク映画「The Hunt(原題:Jagten、邦題:偽りなき者)」。デンマーク語の「Jagten」は…なんて読むんやろ?「hunt=狩り」って意味やろ、たぶん、しらんけど。
この映画、随分前にマッツの事も知らずに観たのに、ストーリーだけやなく、いくつかのシーンやマッツ演じる主人公Lucasと、キーとなる少女Klaraの二人ががすごく印象的でよく覚えてるから、書いとこうと思って。
デンマークの片田舎が舞台で、時々英語が混じってはいるものの、ほとんど全てがデンマーク語。でも、私は吹替版で映画を観ない(あ、昔のジャッキー・チェン映画は別!石丸博也さんの声がこびりついてる!)から字幕慣れしてるんか、何言ってるかわかれへんのに英語で聞く以上にストーリーに没頭できてた。
ただ、この映画、途中で胸糞悪くなるか心地悪くなって、観るのやめる人いるかもしれん。先入観や環境って、これだけ人間を左右するんや…人間怖い…と恐ろしく感じてまうかも。
監督:Thomas Vinterberg
脚本:Thomas Vinterberg, Tobias Lindholm
出演:Mads Mikkelsen, Thomas Bo Larsen, Annika Wedderkopp
あらすじ
舞台はデンマークの片田舎。失業と離婚を経て、幼稚園の先生として再就職した主人公のLucas(マッツ・ミケルセン)。幼稚園では生徒に好かれ、週末は幼馴染たちと趣味の狩猟に興じる穏やかな日々をようやく取り戻していた。
生徒の中には、Lucasの幼馴染であるTheoの娘、Klaraがいた。一風変わっていて一人でいることが多かったKlaraは、いつも優しく接してくれるLucasに対して恋心を抱いていたのか、自分の気持ちを伝えるためにLucasにプレゼントしてきたり、どさくさに紛れて唇にキスしてきたり、ついにはラブレターなんか書いてしまう。Lucasは落ち着いて、Klaraに「口にキスはアカンで、他の男の子にあげてな」と諭したが、Klaraは機嫌を損ねてしまった。
Lucasに振られて腹が立ったKlaraは、幼稚園の校長に「Lucasなんて大嫌い、アホで不細工やし、お〇ん〇んあるし」って愚痴る。「いや、お〇んち〇は男の子はみんなあるで」と校長は返したところ、なんと「でも、Lucasのん、ぴんこだちやってんもん」なんて言ってしまった!
実は、その数日前にKlara、お兄ちゃんとその友人からおふざけでエロ動画を見せられたんよ…はぁはぁ、いうてヤッてる「ぴんこだちなブツ」みてもーたわけ。Klaraにとって相当ショッキングな絵ヅラで、印象に残ってたんやろな。
Klaraが発したこの言葉で、幼稚園の園長は勝手に「うぉ、Lucas、Klaraに性的虐待やってもたんやな!何てことを!」と解釈して、速攻Lucasを性的虐待の犯人扱いに。話はたちまち村中に広がり、Lucasは「性的虐待した変質者」となってしまった。
Klaraはカウンセリングを受けるが、カウンセラーの問いかけはまるで誘導尋問。「ちょっとしたイタズラで言うてもーただけやん、もう遊びたいわ」なKlaraは、その誘導尋問に「うんうん」と合わせて答えていくだけ。
潔白を訴えるためにTheoの家を尋ねたLucas。彼が激怒しているのをみたKlaraは「いや、実は何もされてへんのよ」と両親に自白するが、時既に遅し。「子どもがウソをつくはずないやろ」と大人はKlaraを庇う。特に園長とKlaraの母親は、もうLucasを汚いモノのように見ている。
一度ついてしまったレッテルはなかなか剥がせない。周りの子供も警察に「わたしも見た」とか言うて、Lucasは容疑者として警察に捕まってしまう。結局、子供たちの証言は狂言だったことが判明してLucasは釈放されるんやけど、スーパーでははLucasだけでなくLucasの息子にまで、「お前に売るもんなんかない!来るな!」と殴られる始末。それだけでなく、家に投石されたり、愛犬の死骸を玄関先に置かれてたり…
救いは、元妻のもとから帰ってきてくれた息子Marcusと狩猟仲間の一人が、Lucasを信じていてくれてたこと。Theoも娘の様子から、Lucasがやってないと思えてきてた。
Lucasはクリスマスイブのミサで、大勢の面前でTheoに潔白を訴えた。そのLucasの姿を見て、Klaraも涙ながらに両親にLucasを説得する。母親はまだLucasを疑ってるようやけど、父親TheoはLucasの家を訪れ、わだかまりを解いた。
そして、エンディングへ…嫌がらせもなくなり、やっと平穏に暮らせるようになったある日。息子Marcusの狩猟免許取得を祝して、Marcusや狩猟仲間と狩りへ出かけるLucas。一人で獲物を探すLucasは何者かに狙撃される。間一髪で銃弾かわしたLucasの先に、走り去る人影があった…
DVD/Blu-ray版には、別エンディングが収録されてるねん。私は、採用されたバージョンの方が好きかな。
色んなレビュー拝見すると、ラストでLucasを狙撃したんは、「狩猟仲間、Klaraの母親説、Klaraの兄説、園長説」などなどがあるけど…
私は「Klaraの母親か兄」って線かなぁ
デンマークのことわざと雑感
この映画で怖いのが、「先入観」。園長、カウンセラー、Klaraの母親、スーパーの店員たちの態度は典型的で、反吐が出る。特に園長やな。アホみたいな潔癖さと正義感…先入観バリバリで、結局子どもに寄り添えてないという。
なんと、デンマークにはこんなことわざがあるとか…
Fra børn og fulde folk skal man høre sandheden “from children and drunk people, you will hear the truth”
デンマークのことわざ(Danish proverb)
「子どもと酔っ払いは、見たままや思うままに話す=ウソつかへん」いうことのようですわ。デンマークは文化的に皮肉っぽいところあるらしいけど、この映画、このことわざへの皮肉なんやろか。
でもさ、Klaraは自分がウソをついてしまった事実を、周りのオトナに訴えかけてたんやもんな。それやのに、良く調べもせず勝手に決めつけて、Klaraを誘導してLucasを犯人に仕立て上げた園長とカウンセラーの罪は重いよ。でも彼らのような潔癖で先入観で判断するような偽善者は、大概、それに気づかないんよね。こわいこわい。私はスーパーの店員達のような、周りに先導されて差別的な行動をとる群衆達より、その原因となる先導者達のほうが、こわいわ。
もっと怖いのが…これ、現実にありうるよね?こうやって冤罪が仕立て上げられていくこともありそうやん。特に、痴漢とか性的虐待とかハラスメントって、少しの先入観で見方が変わってしまう。「女性・子ども=弱者」って見がちだから。
あとは「子どもの感情・感性」を甘くみてはいけない。子どもでも大人に本気に恋するかもしれない。お兄ちゃんから見せられたエロ動画に、思いのほか、ショックを受けるかもしれない。マッツ演じるLucasはKlaraの恋心に対して、割と冷静にうまくかわしてたと思うけど…
冤罪を題材にした映画
冤罪が題材の映画いうたら、クリント・イーストウッド監督・主演の映画「True Crime(邦題:トゥルー・クライム 1999年公開)」。処刑目前で…
実話ネタで冤罪を扱った映画は、1999年公開でデンゼル・ワシントン主演の「The Hurricane (邦題:ザ・ハリケーン)」。ボブ・ディランの歌も、ええ感じ。
フィクションだけど、1940年代が黒人差別がまだ色濃い頃を背景にした、ちょっと重たい1999年放送のTV映画「A Lesson Before Dying(邦題:ジェファーソン/冤罪の死刑囚)」。
最後はホロリとさせる、エディ・マーフィとマーティン・ローレンス共演で冤罪を笑いあり涙ありで描く、1999年公開の「LIFE(邦題:エディ&マーティンの逃走人生)」
あれ?偶然か、1999年公開ばっかりやんか!
んじゃ、クラッシックを!1962年公開の「To Kill a Mockingbird」
「To Kill a Mockingbird」は1930年代の黒人差別が色濃いアラバマを描いた作品。モノクロやけど、高校生~大学生に観てもらいたい。
コメント