ハーパー・リー(Harper Lee)が自身の経験に基づいて書いた同名小説を映画化した、1962年公開「To Kill a Mockingbird(邦題:アラバマ物語)」。 モノクロ映画で、小説は1960年にピューリッツァー賞を獲得しています。
1930年のアメリカ南部、アラバマのMacombという町を背景に、正義感あふれるが人間味のある弁護士Atticusの娘、Scoutの目を通して、Atticusの姿や町の人々の姿、そこに起こる事件が描かれている。
アメリカ黒人文化に興味ある人なら、この映画でAtticusが弁護する事件とその公判のシーンは興味深いだろう。白人女性に対する暴行容疑で起訴された黒人青年の弁護を引き受けるAtticus。黒人にかけられた冤罪。その弁護に白人。陪審員は白人ばかり…南部でのリアリティを垣間見れる。
原作小説:Harper Lee「To Kill a Mockingbird」
監督:Robert Mulligan
出演:Gregory Peck, Mary Badham, Phillip Alford, Robert Duvall, John Megna, Frank Overton, Brock Peters…
当時、実際にこの映画のような、「黒人が白人女性を襲ったとされる事件の冤罪」はいくらでもあったと思われる。その中でも有名なのが1931年のアラバマで起こった「スコッツボロー事件」で、ニューヨークからきたユダヤ系弁護士のみごとな再審公判での手腕もむなしく、9人の黒人青年達が有罪判決、死刑を言い渡されたりしたらしい(その9人はその判決後、再審・上告等の戦いの末、起訴撤回や保釈を勝ち取り、死刑を免れている)。
それらの事件とこの映画と合わせ見て、「偏見の下の陪審員制度」で行われる裁判なんて意味の無いもので、そこに正義や真実なんてないんじゃないか?とまで思ってしまう。「法の下の平等」は建前なのか。
いつの時代も少なからず正義を追求したり、人がやりたがらないことができるAtticusのような人間は存在する…(と思いたい)けれど、多勢の力で正義はねじ伏せられ、真実と平等の芽は摘まれることが多いのが現実だったりする。この「多勢」というのがまたやっかいで、正義や大義などはどうでもよく、「仲間はずれになりたくないから」、「みんなに敵視されるのが怖い」と言って行動する。こういう人々が団体になって、少数派への偏見を生んだりするんだろう。そういった多勢に屈することなく、真実を追うAtticusのような人間がひとりでも増えていけば、世の中暮らしやすいだろう。
今時の映画と違って派手さはないけれど、「!」っていう発見は要所要所にある。Atticusは子供に自分のことをDadではなく、自分の名前の「Atticus」で呼ばせてたり、黒人のメイドに対してはAtticus自身の子であるScoutが悪いことをしたらきちんと叱るように言っていたり。
Atticusを演じているのは「ローマの休日」などで有名なグレゴリー・ペック(Gregory Peck)。この映画での彼の役割と演技は目を見張る。他の演者を殺さないで、生身のAtticusを演じるというか…。でも正直、この映画の中の「Boo」の役割を、あたしはまだしっかりと理解できていないと思う。まだまだ見る価値のある映画。
日本では昭和初期である1920年から30年代は、ハーレムなどの北部の大都市では黒人が集まって、「ハーレム・ルネッサンス」なんて呼ばれるほど、音楽や文学の発展が目覚ましかった時期でもある。安い賃金で働かされ、いつ首を切られるかわからないけれども、力を蓄えて発散できてた時期ではあるのだろう。北部と南部の温度差が感じられる。そして、1962年に制作されたモノクロームの映画だけれども、モノクロであることを忘れちゃうほど、活き活きと一つ一つのシーンが描かれている。見ておいても損はないと思います。
モノクロで見た映画でもう一度見たいのは「Death of a Salesman (1951) 」や「The Scarlet Letter (1934)」。大学の授業でみたから、どのバージョンかわからないけれど。この2作品も、人間とそれを取り巻く環境と思想を考えさせられる映画でした。
HAMって書いてるハリボテをかぶったScoutが兄のJemと逃げるシーン、スリリングなはずなのに、素朴にかわいい。最後に正体を現す「Boo」を演じるのが、映画「COLORS(邦題:カラーズ 天使の消えた街)」に出演している若き日のロバート・デュヴァル(Robert Duvall)とは…。
「COLORS」はブラック・カルチャーやHIP HOPに興味ある人には観ておいてもらいたい映画やで
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